屋内。フォックスのオフィス。ウェイン・インダストリー社内。日中。
フォックスがデスクの向こうから立ち上がる。
フォックス
合弁の話を断ろうとしたら、われわれの中国の友達はもう帰国した後でした。
ウェイン
たしか君は、前から香港に行きたがっていたよね。
フォックスは専用エレベーターへのドアを開ける。
屋内。専用エレベーター。続き。
フォックスがキーを回す。
フォックス
電話ではだめでしょうか?
ウェイン
ラウ氏とは、もっと親身なおつきあいをしないとね。
屋内。応用科学部門。続き。
フォックスがウェインの先に立ってエレベーターを下り、広大な空間にやってくる。
フォックス
高高度からダイブするためには、酸素供給と姿勢制御システムが必要です。こう言っては何ですが、今までいろいろ要求なさった中では、まだまだ簡単な方ですな。
フォックスはキャビネットの前で足を止め、引き出しをあけて酸素ボンベと強化ワイヤーの入ったホースを取り出す。
ウェイン
帰りの飛行機はどうしよう?
フォックス
旅行会社に頼むといいですよ。
ウェイン
飛んでる飛行機に直接乗れないかな?
フォックス
やっとそれらしくなってきましたな。
フォックスは引き出しを閉じ、考え込みながらキャビネットを離れる。
フォックス(間を置かずに)
今ここにある機材では無理です。たしか60年代に、CIAが危険地帯から人員を回収するシステムを持ってました。たしかスカイフックとか言いましたか。まあ、それはともかくとして…
フォックスは別のキャビネットを開けて、新型バットスーツのパーツを取り出す。網目状の素材を、幾枚もの装甲板がおおう構造だ。ウェインは腕の部分を取り上げる。
フォックス
柔軟性を高めるため、チタニウムでコーティングした繊維を三重織りした上に、強化ケブラー樹脂の装甲を…
ウェインは篭手の部分に装備された両刃の飛び道具を調べている。
フォックス(間を置かずに)
これなら、より軽く、速く、敏捷に動けるように…
不意に飛び道具が篭手から発射され、手裏剣のように回転しながらウェインの耳をかすめて近くのファイルキャビネットにガガガッと突き刺さる。ウェインは危うく身をかわしていた。
フォックス(間を置かずに)
まず説明書をお読みになるといいかもしれませんね。
ウェイン
ごめん。
フォックスは胸を覆うパーツを取り上げ、その柔軟さを示す。
フォックス
しかし、これも善し悪しでして…伸びたときにプレートの間に隙間ができます。そこを銃やナイフで狙われると危険です。
ウェイン
なんでも簡単になるばっかりじゃ、面白くないだろう?(スーツを取り上げ)犬の攻撃は防いでくれるかな?
フォックスは謎をかけるようにウェインを見る。
フォックス
犬というのはチワワでしょうか、ロットワイラーでしょうか?
(ウェインが笑う)
大丈夫でしょう、とりあえず相手が猫ぐらいなら。
屋内。バット格納庫。日中。
ウェインがパラシュートのハーネスを点検している。アルフレッドが、機種に巨大なV字型のパーツが付いた海軍輸送機の設計図を広げている。
アルフレッド
ありました。アリゾナ州です。とても親切な男が、一週間でまた飛べるようにすると言ってます。それから支払いは現金にしてくれと。乗員はどうしましょう?
ウェイン
韓国の密輸商を使う。いつも低空でレーダーをくぐって平壌へ行ってるそうだ。私のアリバイは考えてくれたかい?
アルフレッドはにわかに得意満面になる。
アルフレッド
それはもちろん。
屋外。バレエシアター。夜。
レイチェルとデントがやってくると、チケット売り場にシャッターが下りている。窓口のガラスに新聞の切り抜きが貼付けてある。ヨットに乗ったブルース・ウェインの写真の上の見出し:
ヨットで豪遊:ブルース・ウェイン、モスクワバレエ団を総揚げ
屋外。甲板。ウェインのヨット。カリブ海。日中。
一ダース以上のバレリーナが日光浴していて、足の踏み場もない。その間を縫ってどうにか歩いてくるアルフレッド。ウェインが新聞から目を上げる。入り江の反対側に水上機が降り立つのを、アルフレッドが指差す。
アルフレッド
飛行機が参りました。
ウェイン
疲れてるのかい、アルフレッド。私がいなくて大丈夫かな?
バレリーナの一人がごろりと寝返りして、アルフレッドに日焼けローションの瓶を振ってみせる。
アルフレッド
少しロシア語を教えていただければ大丈夫かと。「それぐらい自分で塗れ」は何と言うのですかな?